任意後見契約の発効と解除
任意後見契約の発効について
任意後見契約は、委任者である本人が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況となったときに、本人、配偶者、4親等以内の親族または任意後見受任者の請求により家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから効力が発生します。
そのため、任意後見契約の効力を発生させるためには、任意後見監督人選任の積極的要件と消極的要件をみたした上で、家庭裁判所へ任意後見監督人選任申立てを行う必要があります。
任意後見監督人選任の積極的要件
任意後見契約に関する法律4条で選任の要件を次の①~④のように定めています。
①任意後見契約が登記されていること
任意後見契約公正証書を作成すれば、公正証書を作成した公証人が東京法務局に対して、任意後見契約の登記の嘱託を行い、任意 後見登記を行います。そのため、家庭裁判所へ任意後見監督人選任申立てを行う段階で既に登記はなされています。
②精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあること
認知症、知的障害、精神病その他の精神上の障害により、少なくとも法定後見制度の補助の要件に該当する程度以上の判断能力が不十分な状況にあれば、この要件を満たします。家庭裁判所は、本人の精神の状況に関する医師のその他適当な者の意見を聴いて判断するので、鑑定は必要ありません。
③本人・配偶者・4親等以内の親族又は任意後見受任者の請求があること
④本人以外の者の請求の場合には本人の同意があること
ただし、本人がその意思を表示することができないときは、同意は必要ありません。
任意後見監督人選任の消極的要件
上記の積極的要件が存在しても、次の場合には任意後見監督人は選任されません。
①本人が未成年であるとき
②本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
③任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
・未成年者
・家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人
・破産者
・行方の知れない者
・本人に対し訴訟をし、またはした者およびその配偶者ならびに直系血族
・不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
任意後見契約の解除について
任意後見契約に関する法律は、任意後見契約の解除要件について定めていますが、任意後見契約の効力の発効前と発効後で違いがあります。
任意後見契約に関する法律第9条
1 第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。
2 第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができる。
一方的な解除もできる!?任意後見契約の発効前の解除。
任意後見契約の発効前であるということは、本人の判断能力がいまだ低下していない状態にあります。その場合、本人の保護が必要な状況ではなく、任意後見人の契約に基づく代理権行使がいまだ行われていない状況ですから、公証人の認証を受けた書面を必要とする方式要件だけを課しています。
このように、任意後見契約の発効前の解除は、方式上の制約があるだけで、当事者はいつでも解除することができます。
そのため、任意後見受任者として、本人に対して契約解除の意思表示を記載した書面に公証人の認証を受けた上で、その書面を内容証明郵便で本人に送付することで一方的に解除することもできます。
また、本人の承諾を得て合意解除する場合には、解除することを合意した旨の書面を作成し、その書面に公証人の認証を受けることにより解除することができます。
正当な事由って何!?任意後見契約の発効後の解除。
任意後見契約の発効後であるということは、本人は判断能力が低下し、要保護状態にありますから、任意後見人により任意後見契約で定めた代理権に基づく保護活動が進行している状態です。このような状況で、契約の当事者である本人および任意後見人からの自由な解除を認めることは、本人の保護を目的とする任意後見制度の趣旨に反することになります。
そこで、任意後見契約の発効後の解除には、「正当な事由」の存在という要件と、「家庭裁判所の許可」という要件の二つが必要となります。そのため、任意後見契約の発効後の解除を求める当事者(本人または任意後見人)は、家庭裁判所に許可を求める審判の申立てを行います。
家庭裁判所は、「正当な事由」の具体的内容やその有無について判断をし、正当な事由有りと判断した場合には許可の審判をします。
「正当な事由」とは、疾病等のためにその職務遂行が任意後見人にとって事実上困難な状況にあること、本人またはその親族と任意後見人との間の信頼関係が破綻したため、任意後見人の職務遂行が困難であること等、一般的には、任意後見人としての事務を行うことが困難な状況にあることとされています。